デンマークにあるクンステン近代美術館から作品制作を依頼されたデンマーク人アーティストのイェンス・ハーニング。彼がとった挑戦的な行動が話題になっている。
同美術館からハーニングへの依頼内容は、同氏が過去に発表した2つの作品を再現してほしい、というものだった。
その2つの作品は、デンマークとオーストリアのそれぞれの平均年収を実際の紙幣をキャンバス上に散りばめることで可視化したもので、それぞれのタイトルは「デンマーク人の平均年収」と「オーストリア人の平均年収」。
今回はそれらの再現ということで、同美術館は材料費として、ハーニングに約940万円を貸したという。
しかし、ハーニングから届いた2つの“完成品”を木箱から取り出してみると、どちらも何も手が加えられていないままの、真っ白なキャンバスだった。
キャンバスには一応、木の額縁がつけられていたのだが、紙幣はどこにも散りばめられていない。同美術館が彼に貸した、940万円分の現金はいったいどこへ行ってしまったのか?
同美術館の職員の証言によれば、ハーニングから「作品のタイトルを『Take the Money and Run(金を貰って逃げろ)』に変更した」とのメールが届いていたという。
この作品(『金を貰って逃げろ』)は、「アート業界内で、より公平な規範を確立するために、芸術家たちの権利と彼らが置かれている労働条件に疑問を投げかける」ものとして作られたそうだ。
ただし、作品のタイトルを変え、コンセプトも変えたとはいえ、これでは「お金の持ち逃げではないか」といった声も少なくない。
「私と同じようなクソみたいな労働条件下にいる人たちへ」
ハーニングはデンマークのラジオ番組「P1モーゲン」に出演し、自身の作品は「美術館に対する一種の抗議だ」と、語っている。
米メディア「アートネット」によれば、彼は「作品を再現するのに、借りた金額では足りなかった」と述べ、日本円にして40万円ほど自腹を切らなければならなかったと明かしている。
そして、こう主張している。
「仕事をするために自腹をきることを求められるような、私と同じようなクソみたいな労働条件下にいる人たちは、貰えるものは貰ってその状況から離れよう!」と。
一方、同美術館は、これはこれで興味深いコンセプチュアル・アートだと考え、9月24日より始まった労働を主題とした展覧会「Work It Out」で、予定通りハーニングの作品を展示している。
しかし、彼が提出した作品は「合意に基づくものではない」と、同美術館のディレクター、ラッセ・アンダーソンは同ラジオ番組内で語っている。
「展覧会が終了する1月16日には、契約通り、貸したお金の全額を返してもらう」。返却しない場合は「必要な措置を講じる」と、述べている。
だが、ハーニングは、今回展示されている作品『金を貰って逃げろ』は、お金を持ち逃げするところも含めて作品であると主張しており、今のところ借りたお金を返すつもりはないようだ。
「これは別に泥棒じゃない。契約不履行だ。契約の不履行はこの作品の一部である」。
「アートワークは本質的にアーティストの労働条件に関するものだ。それは私たちが、自分たちが所属する構造に疑問を投げかける責任を取るつもりだという主張でもある。そしてもし、これらの構造が完全に不合理であるならば、私たちは一緒にそれを壊さなければならない」
これはアートに限らず、「結婚でも、他の仕事でもそう。どんなタイプの社会構造に対しても言えることだ」。
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